ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第13号----

2000/01/30 08:30

いやー、久しぶりのメルマガ配送である。
1月はX.Y.Z.のライブも1本しかないのに何をしとったんじゃ!
といぶかしがる方々も多い中、
泳ぐのをやめたら呼吸が出来なくなって死んでしまうサメのように、
ただひたすら自分を忙しくしてたファンキー末吉であった。

何が忙しいと言うて、
さきおとといまで香港から友人が来てたのが一番大変やった。
何が大変やと言うて酒を飲むのが大変やった。
「友、遠方より来たりて酒を飲む」である。

友とは、香港No.1のロックバンド「BEYOND」のドラマー、Wingである。
俺自身、香港に行ったりするとそれはそれはよくしてくれる。
日本に来たらよくせいでか!と言う状態である。

友達とはほんとにいいものだ。
最後の夜、武蔵小山のJazz屋で朝まで飲んだ。
「この店にはいっぱい思い出が詰まってるんだ・・・」
彼が懐かしそうにそう言う。

フジテレビの番組収録中の事故で亡くなったBEYONDのボーカリスト、
コマ君の誕生パーティーもここでやった。
友人達が彼に贈ったプレゼント、
それは「麻衣ちゃん」と言う名のダッチワイフ。
それと共に撮った写真が我が家の遺影である。

「この店で俺も当時の彼女と知り合ったんだよね」
「いやいや、俺こそあの日、コマが死んだ夜この店で嫁との結婚が決まったんだぜ」
「お前は知らないだろうけど、この席でランランと朝まで秘密の話をしてたんだ」
等、思い出話にはことかかない。

さきおととい成田まで送りに行って、いざ彼が帰ってしまったら、
あまりの忙しさから開放されてほっとした気持ちの反面、
またとても寂しくなった。

また何か理由つけて香港に行こう・・・


さて、今日のお題
「外国語で歌うと言うこと」

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そもそもWingを呼んだと言うのも下らない仕事である。
現在五星旗で中国語の教材用CDのレコーディングをしている。
「カラオケで学ぼう中国語」と言うやつだが、
そのカラオケCDを作成すると言う仕事である。

まあバンマス兼プロデューサーとしてはいろんなことを考える。
「その予算でついでに五星旗のミニアルバムも録音してしまえば、
そんなに経済的なリスクもなく、
産休のつなぎとしてのいいリリースが出来やしないか・・・」

まあ映画音楽などはまさにその発想で、
サントラ1枚分の予算でついでに映画のBGMも全部録ってしまう。
同じ原理である。
「ほなみんなギャラないけど頼むわ」

別に演奏をレコーディングするぶんには何の問題もない。
奴らも優秀なJazzミュージシャン、
レコーディングなど朝飯前である。
おまけにベースの仮谷くんはアレンジも打ち込みも出来るので、
俺としては何もせずにいて楽である。

まあ問題なのは模範演唱であるが、
幸い五星旗の二胡奏者WeiWeiは歌も歌えるので、
「大丈夫ですよ、問題ありません」
と軽くこの仕事を引き受けたものの、
いざ製作が始まってみるとひとつの問題に直面した。
カラオケで歌いたい中国のスタンダード曲は、
必ずしも女性が歌う歌ばかりではないと言うことである。
「男性パートは誰が歌うねん!」
予算もないし、中国語で歌えるメンバーと言えば・・・・
「しゃーないなあ。俺が歌うか・・・」
レコーディングスケジュールの大部分を歌入れに割り当てた。
「さっさと録音してや、歌入れ時間かかるんやからな!」
メンバーも大変である。
これもしゃーない。

五星旗の方のアルバムにも何か書き下ろしのインストを入れなアカンなあ・・・
幸い最近書き下ろしたいい曲があったのでそれをメイン曲として・・・と・・・
後はその教材用のCDの中からちゃんとした歌バージョンを作って、
(基本的に教材なので1番が模範演唱で2番がカラオケ)
それも五星旗の方に入れてまえ!
うん、この曲なかなかええから、Rapバージョンとかも作りたいなあ・・・
・・・夢は膨らむ予算の中で・・・

そんな中、ある夜、突然久しぶりにWingからE-mailが届いた。
「何やってんのぉ。元気?電話番号変わったの?この前電話したら通じんかったでぇ」
とか言う他愛もないもんである。
ちなみに中国語である。関西弁のわけはない。
ちょっと懐かしかったんで酔いにまかせて電話した。
「見たでぇ、E-mail。日本の携帯電話の番号は090になったんや。
まあMailで送るわ。へ、へ、へ、ところで元気?」
もちろんこれも中国語である。
Mailでのやりとりもいいが、久しぶりの電話もいいもんである。
「ほなね、また・・・」
電話を切ってMailを書く。
書きながらふとこんなアイデアを思いつく。
「お前なあ、ヒマやったら日本に遊びに来んか?
俺今レコーディング中で、1曲ひとりで歌わなアカンし、
出来たらRapもやりたいんやけど、俺ひとりじゃ何なんで手伝いに来いひんか?」

我ながら下らんアイデアである。
BEYONDが活動休止してから、
全世界の中華系音楽ファンから彼らの個人活動に熱い期待が寄せられている中、
こんな下らない話につき合わせてもいいもんだろうか・・・
「かまへんかまへん。俺ロックレコードと契約切れたから、
俺がウンと言えばそれでウンやから・・・」
と彼は言う。
それにしても・・・
「Wingぅ、予算がほとんどないんや。銭もあんまし払えへんでぇ」
「かまへんかまへん。メシと酒を保証してくれたらそれでええでぇ」
それにしても中華圏の大スターを酒だけで呼ぶわけにもいかんじゃろ・・・

かくして彼の5年ぶりの来日である。
受け入れ先の会社はなし。
連絡先は俺の携帯。
この噂を聞いたアジア関係のメディアはみんな俺の携帯に電話をかけて来た。
「Wingぅ、ラジオに出て欲しい言うてるでぇ。取材もして欲しい言うてるでぇ」
結局彼のスケジュールは真っ黒。
俺は、自分の仕事の合間合間にコーディネーターとして送り迎え等ケアをやらねばならない。

そして夜はびっしり飲み会である。
「誰それと会いたいなあ、誰それも元気?」
彼の目的はもう仕事ではない。
懐かしい友達と酒が飲みたいのである。
「今回の来日の目的は何ですか」
取材陣からの質問に彼はこう答える。
「懐かしい友達と酒を飲むこと、そしてFunkyの子供の顔を見に来た」
これでええんかい!

それはそうとレコーディングである。
これを最初に済まさないと酒も飲めない。
まず彼の書いて来た歌詞をRapで乗せて見た。
「うん、新しい!」
10年前、中国語のロックに魅せられてから、
俺にはずーっと中国語のRapに興味があった。
Rapに乗りやすい言語だと思ってはいるのだが、
どうも中華圏ではロックの雄、ツイジェンを除いてはまだロクなもんがない。
(広東語ではちらほらあるんだけどねえ・・・)

よし、一緒に歌うぞ!
歌うぞ、と言ってもRapである。
音程はいらん、リズムだけに気をつけろと言うのはドラマーの俺らにとっては楽である。
問題は発音である。
広東語がネイティブであるWingと、日本語がネイティブである俺とでは、
どうしても正しい発音であるかどうかのチェックが必要となる。
大陸出身の中国人を呼んでディレクションしてもらう。

「ファンキーさんはここの発音がちょっとはっきりしない。
Wingさんはここね」
やりとりはもちろん中国語である。
「ほなもう一回やりなおそか。ほな回してや」
エンジニアにそう言うが、エンジニアはぼーっとして何も反応しない。
気が付いてみたらそれが日本語ではなく中国語で言ってたり、
まあ中国人とレコーディングする時によくある笑い話である。
パンチ・イン、パンチ・アウトなど、言語のわからない日本人には地獄であろう。
すまんのう・・・

かくして完璧だろうと思われるテイクが録り終わったが、
どうも場の雰囲気はそれをいいものとしていない。
なんでやろ・・・

全てのものが硬いのである。
リズムもいいがグルーブはない。
発音もいいが感情がない。
こりゃ大変や・・・

やり直す。
「Wingぅ、こりゃアカンわ。
発音どうでもええから、とりあえず感情こめていこや」
完璧な発音にしてや!と言うディレクションはすぐ崩れ、
「香港人と日本人がやってるRapやっつう感じで仕上がればええわ」
となる。

その昔、二井原実がラウドネスで最初の英語版を録った時の話を思い出す。
「いやー、大変やったでぇ。
ひどい時には一行で一日かかったりなあ。
俺としては完璧な発音や思てても、
ニイハラ!今のはちょっとニューオリンズ訛だったぜ、
ロックはやっぱLA訛じゃないとな・・・
とか言われてもわからへんやん。
もうまぐれ当たりを狙うしかない。
向こうがOK出すまで何回でもまぐれを狙うて歌うしかないんや。
1曲に3日かかったこともあったでぇ」

わかるなあ・・・

何語であってもやっぱ歌である。
シンガーとして表現できてなんぼである。
発音は二の次でやっていくしかない。
「このテイクは表現としてはばっちりなんやけど、
発音がいまいちやからやり直し」
でやっていくしかない。
歌自身をもまぐれ当たりでレコーディングしてる奴にはできん芸当である。

かくして俺の中国語の歌録りが始まった。
発音指導のWeiWeiが頭をかかえる・・・
「歌がアカンの?発音がアカンの?
言うとくけど、歌がアカン言うても、何回やり直したところでレベルは上がらんでぇ!」
中国語の教材である。
すまんが歌の表現力は捨てさせてくれぇ。

Rapは発音自体は大変だが音程がないぶんまだ楽である。
歌を歌いながら、
リズムにも音程にも、そして発音にも気を使って歌えるわけはない!
二井原はようこんなことやってたなあ・・・


X.Y.Z.の英語版の録音が始まった。
Miracleとかはもう録り終わっている。
これを持って今年は全世界にライセンスを取りにまわるのだ。

いやそれにしても二井原は凄い!
ほとんど数時間で「外国語」の歌を録り終えてるのである。
英語詞と発音指導のボブが言う。
「ニイハラの発音は全然問題ない。
少々違ってたって、変だったって、
彼のその声の説得力で全てがOKになる。
こんな声を持ったボーカリストはアメリカにはいない。
だからラウドネスは売れたんだ」
酒飲んでたらただのアホやけど、
やっぱ凄いんやなあ、こいつ・・・

二井原が言う。
「俺のシャウトってなあ・・・
どうも白人達にはブルースリーのアチョーと同じに聞こえるらしいんや。
カンフーボイスとか言われてたからなあ・・・」

俺ら一生懸命ハードロックしてても、
アメリカ人から見たら香港映画と同じなんかい!

まあそれでもええわ。
世界に出れるんやったら・・・

狭い日本にゃ住み飽きた。


ファンキー末吉


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