ファンキー末吉とその仲間達のひとり言
----第135号----
2008/03/28 (金) 5:20
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Funkyスタジオ八王子
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ワシは金には縁がない。
爆風全盛期のころにその莫大な収入をその年のうちに使ってしまい、
翌年には税金が払えなくて借金したと言うのは有名な話である。
江戸っ子でもないのに宵越しの金は持たず、
貯金をしたこともなく、
不動産とかに投資をしたこともない。
人生そのものが「博打」みたいなものなので賭けごともやらず、
商売とやらもいやな思いしかしたことないので、
これはきっと神様が「お前はそんなことやるな!」と言っているとしか思えない。
先日なんかドルが非常に安くなってたので、
XYZのアメリカツアーのために安いうちにドル貯金をしとこうと
口座を開設して入金した次の日にはもっと下がっていた。
「じゃあもうちょっと貯金しときましょうか」
さすがに損したと言う気持ちがあるので
これ以上はいくら何でも下がりはしまいとばかり更にドル貯金をすると、
何とその後すぐに史上まれに見るほどのドル安となった。
さすがに本当にもうこれ以上下がるはずはないだろうから
今回来日した時にまた更にドル貯金してもいいのだが、
その神様のポリシーにより更にドルが下がった暁には日本経済はガタガタになってしまうだろうから、
世のため人のため、世界平和のためにもうやめた。
そう、ミュージシャンは貯金なんかしたらあかん!
江戸っ子じゃなくても宵越しの金なんぞ持ってはいかんのである!
と言うわけで買い物をした。
二井原が「近所に安い物件が売りに出されてるでぇ」と言うので、
そこを買ってスタジオにしてしまおうと言うのである。
二井原の大邸宅がある八王子は、
一応東京都であるにもかかわらず、土地が非常に安い。
過疎化が問題となっている高知のうちの実家のマンションと
同じ値段でここでは一戸建てが買えると言うのである。
八王子は高知と一緒か!いやそれ以下か!!!と言いたくなる。
二井原大邸宅には何度か泊めてもらったことがあるが、
まあ言わば日本と言うよりはカリフォルニアである。
車がなければ生きてゆくことは出来ない。
閑静な住宅街、
自然が多く、空気もよい。
朝は探索を兼ねてその辺をジョギングした時の話。
近所に小川があり、澄んだ水には魚も泳いでいる。
川っぺりの道を走っていると、
川の中に何やら鳥のオブジェのようなものを発見した。
鶴?・・・いやいや一本足で立ってるからフラミンゴ?・・・
どっちにしろセンスがいい。
公園にタヌキやパンダのオブジェを置くのとは雲泥の差である。
その正体を見極めようと近くに寄ってみると、
いきなりそのオブジェが羽を広げて飛び立った。
この街はこんな大きな野生の鳥が生息してるんか・・・
こんな理想とも言える住宅地にスタジオなんか作ってええんかい・・・
北京のスタジオは周りが全部ロックミュージシャンなので防音なんてしてないが、
こんな閑静な住宅地でそれをやったら間違いなく警察沙汰である。
「ファンキー、いくらなんでも防音はせなアカンでぇ」
このスタジオをXYZスタジオとしてしまい、
レコーディングから、果てはリハーサルまでを全て近所でやってしまおう
と虎視眈々と狙っている二井原が、インターネットで業者を探して来た。
録音機材から本格的スタジオ施工までをこなすプロフェッショナルな会社である。
家のカギは二井原が持っているので、業者を呼んで見積もりを出してもらった。
「機材込みで総額1000万?!!!」
ヘドが出るほど驚いてしまった。
機材で400万ぐらいはかかるだろうとは思っていたが、
なにせ北京のスタジオは防音工事代がゼロだったもので、
どうも器材より高い防音工事と言うのがどうしても感覚的に解せない。
「もっとまかりませんか」
担当のM氏は年のころはワシらより少し若いぐらいであろうか、
完璧にラウドネス、爆風世代である。
「私の青春を飾ってくれたお二方のためなら死ぬ気で安くしましょう」
頼もしい言葉を残して図面作りに入る。
ドラム録音からミックスダウンまで出来るスタジオにすべく、
機材やドラムブースにいろいろ注文をつけるワシ。
夜中にパジャマでやって来てそのままリハーサルが出来るようにすべく、
防音関係にいろいろ注文をつける二井原。
かくしてM氏の命をかけた見積もりが出た。
「総額1200万」
上がっとるやないかい!!!
まあそれもそうである。
M氏が言うには、これだけ閑静な住宅地でドラムが叩けるようにするには、
そしておまけにヘビーメタルのような音楽をやろうなどと思ったら、
防音だけで少なくとも800万はかかってしまうのはいた仕方ない、と。
「もっとまかりませんか」
ひつこく食い下がるワシ。
何度も図面を引き直すM氏。
しかしどこをどのようにいじっても最終的に値段はそれほど変わらない。
「ではご予算は一体おいくらなんですか?」
M氏から最終的に泣きが入る。
「そうですねぇ・・・北京のスタジオが400万ぐらいで出来たんで・・・
なんとか400万ぐらいで出来ればありがたいんですが・・・」
親身になってまた図面を引き直そうとするM氏。
「防音工事を400万と言うのはかなり厳しいですがちょっと頑張ってみます」
「あ、違います。機材と防音合わせて400万っつうことなんですが・・・」
それ以来M氏からのメールの返事が途絶えた。
「怒ったんかなぁ・・・二井原ぁ、どう思う?」
周りの友人にも意見を聞いてみる。
「あんた中国の屋台でばったもんの土産でも買うとるんやあるまいし、
日本で値段交渉を半額以下から始めてどないしまんねん!!」
国際電話で詫びを入れて、再び値段交渉である。
この辺になると、間に立っている二井原が少しナーバスになって来た。
「ファンキー、1000万言うたらやっぱ大金やでぇ。
それをやっぱ土産もんでも買うみたいにぽんと買うのはおかしいでぇ。
俺、少なくてもやっぱそこまで責任持てんわ。
もっと冷静に考え直して見るべきなんとちゃうかなぁ・・・」
パジャマ姿で歩いてレコーディングスタジオは頭で考えたら素敵な夢だが、
こうして生々しい現実に晒されてみると恐れ多い夢と言うことである。
実際北京のFunkyスタジオは理想そのものである。
ウェイン・デイヴィスにセッティングしてもらった世界最高の音が
目が覚めたらそのままパジャマのままで録音出来るのだ。
しかもドラム叩き終ったらすぐにビール片手に風呂に飛び込む。
こんな理想があの値段で手に入ったのは
ひとえにここが北京の貧民街であるからであって、
それを世界一物価の高い東京で、
しかもこんな閑静な住宅地で作り上げようと言うのは
これはもう夢を通り越して幻なのかも知れない。
「ほな嫁と相談しまひょ」
少なくとも嫁はワシより常識人である。
子供も生まれて将来にも不安もあることだろう。
いきさつから結論まで細かく嫁に説明した。
そして嫁はこう言った。
「XYZのスタジオ作るんに私が反対出来るわけないやろ。
うちの旦那は飲む打つ買う。
飲むは酒を飲む、打つはドラムを打つ、買うは機材を買う。
もうあきらめとるわ・・・」
嫁の鏡である。
かくしてFunkyスタジオ八王子は着工した。
M氏はこれ以上落とせないまで値段を下げ、
しかも他の現場から余った材料まで持って来て
「最高のスタジオを作らせてもらいます」
と頑張ってくれている。
二井原は日本にいないワシの代わりに工事を監督し、
100円ショップで末吉のハンコを買って、
電気、ガス、インターネット等の手続きまでやってくれている。
4月末にはスタジオは工事は終わると言う。
今回のXYZのベストに入れる新曲のレコーディングには間に合わなかったが、
今後XYZは無尽蔵に時間をかけて好きなだけアルバムを作ることが出来る。
二井原も別にラウドネスで使ってくれてもいいし、
橘高も筋少で使ってくれてもいい。
和佐田もあれだけプロジェクトを抱えてるんやからどんどん使ってくれてええし、
田川くんも東京引っ越して来ると言うならここで住めばいい。
二階にはまだ4部屋余ってるし、
何なら金のないバンドは泊まり込みでレコーディングすればよい。
二井原がきっといいプロデュースをしてくれるじゃろう。
うん、これでいいのだ!
世のため人のため、ロックのためである。
ファンキー末吉