ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第59号----

2002/04/02 (火) 10:50

「絆創膏」

先日CCTV4の番組に出演した。
いつものように陳琳(ChenLin)のバックバンドなのだが、
行ってみるとその番組の司会は私の偶像、朱迅であった。

その昔、中国語を勉強しようとNHK中国語会話を見ながら、
そこに出演していたアシスタントの女の子の可愛さを励みに
くじけそうになる気持ちを克服して頑張っていた。
その可愛い女の子もその後はトゥナイト2のレポーターとなり、
山本晋也監督と風俗をレポートしたりし、
最後には自分の音楽番組を持つほどになっていた。

そしてその後、彼女は中国に帰り、
全中国に放映される昼間の人気バライティー番組の司会を始め、
今では結構CCTVの顔となっている。

日本では司会と言うと何だか立場が低そうなイメージがあるが、
中国では番組の司会イコールその番組の顔イコールその番組のプロデューサーである。
彼女も「自分の番組」として、
いわゆる日本の番組におけるプロデューサーの役割も担っている。

「ファンキー、久しぶりねえ。今日はドラムソロやってもらうわよ。思いっきり派手なのお願いね!」

偶像に笑顔で面と向かってそう言われたら断れるわけがない。
「今日は当てぶりとちゃうの?」
S社長に聞いてみる。
「曲は当てぶり。ドラムソロだけ生でよろしく」
まあドラムソロは当てぶりに出来ないからねえ・・・

てっきり当てぶりだとばかり思ってたので、ドラムセットも適当に運んでもらってるので、
パーツとかいろんなものが全部揃っているかどうか心配である。
さっそくステージ袖に組んでみて点検。
ツインペダルを忘れているが、まあその他のパーツは問題なし。

他の出演者の出番が終わり、サウンドチェックとなるが、
当の陳琳(ChenLin)が来てないので、適当にカラオケのレベルなど合わせて終わる。
じゃあドラムばらして・・・と思ってたらいきなり朱迅が、
「ファンキー、ドラムソロの部分をやりましょ」
やりましょったってソロでしょ、適当に叩きますがな・・・
と思うが偶像が言うので仕方がない。
「まあ、こんな感じでしょうか・・・」
適当に短いやつを披露する。
「こんなに短いの?ダメダメ、30秒ぐらいはやってもらえないと・・・」
まあ偶像が言うんだから仕方がない。
「ほなこんな感じですか・・・」
ちょっとリズムソロっぽい感じのを交ぜて長めにまとめる。
「ダメダメ、そんな遅いんじゃぁ。もっとタムとか使ってものすごく速いやつ」
タムとバスドラの複合6連フレーズのことですかぁ・・・
「これのこと?」
とりあえずやって見る。
「そう、それのもっと速いやつで30秒やって!」
いくら偶像でも筋肉番付じゃないんだからそれでソロはまとまらんじゃろ・・・
「私は日本でも北京のJazz-yaでもファンキーのソロ見てるけど、こんなもんじゃなかったじゃない。
あの時のブワーって盛り上がるやつ、あれを30秒やって!」

「わかった、わかった。そんな感じでまとめておくよ」
とりあえずお茶を濁してその場をまとめる。
「S社長!すまんが誰かにすぐツインペダルを取りに行かせてくれー」
片足でやるより両足でやった方が当然速いし楽である。
それよりも心配なのがステージの床である。

シンバルやスネアドラム等、叩く楽器はいいのだが、
バスドラムやハイハット等、踏む楽器は、
物理的な力のかかり方が上から下へではなく横にかかるので、
当然押されてどんどんと滑って遠くに行ってしまう。
通常はじゅうたんやカーペット等を敷いて、それにちゃんとグリップするようにするのだが、
テレビ局の持ち回りのステージではそうもいかない。
「ガムテープ持って来て!」
手馴れたもんで、ガムテープを床に貼って輪を作り、
そこにバスドラ等をひっかけてストッパー代わりにして動かなくするのだ。

S社長がテレビ局の人に手配する。
そして自信満々に持って来たのが「絆創膏」・・・

絆創膏でバスドラが止まるかい!

でもそれしかないと言うからには仕方がない。
絆創膏を何重にも貼り付けてストッパーを作り、
とりあえずドラムを片付ける。

そして本番。
客も入れてオムニバスバラエティー形式で番組が始まる。
子供のマリンバの楽団や、手品まがいのおじさんや、
そんなのに混じって「大物歌手」として陳琳(ChenLin)が紹介される。
ワシはただのバックバンドである。
ほげーっと当てぶりで数曲叩くマネをしてたらいきなり朱迅から振られる。
「さてみなさま、今日は私はびっくりしました。
ドラムを叩いている彼は私の日本の友達で、こんなところで会えるとは奇遇です。
ここでみなさん。今日は彼にドラムソロを披露してもらいましょう。いかがでしょう」
ワー!キャー!やんややんや・・・
偶像がそう言うんだから客席も盛り上がらねば仕方がない。

ドドパン!トゥルトトントドコドンドバラガッシャン!ドバラドバラドバラドバラ・・・
偶像のリクエストでタム類を使った速いフレーズを披露すると、
さすがに音楽が全然わからない客席も大盛り上がり!
しかしここでワシはひとつの大きなミスを犯したことに気づいた。
30秒とは実はとてつもなく長い時間である。
まだ叩き始めて10秒足らず、ここで最高潮に盛り上がったんでは
残り後半をどうやって更に盛り上げることができよう・・・

片足でやってたことを今度は両足交えてもっと速く叩くしかない!
ワンバスからツーバスに切り替えて、
ついでに足だけで踏みながら上着を脱いで後ろに大きく放ったり、
ちょっとパフォーマンスに逃げてみたりもする。

客、ちょっとウケる。
ワシちょっと安心する。

しかしここでワシは
実はどんどん間違った方向性に足を突っ込んでしまったことに気づいてない。
足を突っ込んだと言えば、
絆創膏なんぞでこの強烈なツーバスを支え続けられるわけがない。
どんどん遠くに遠ざかってゆくバスドラを追いかけて足をどんどん伸ばしながら、
最後に今度はシンバルも交えた6連ツーバスフレーズでフィニッシュを決める!

客・・・あんましウケない・・・

シンバルが加わったと言えど、
速度が前半の6連と同じなのでこれではインパクトが足りないのじゃろう・・・
ひとしきりやったら乱れ打ちに持って来てエンディング。
これでは尻つぼみになるので、だんだんゆっくりにして行って、
最後の一打をスネアの頭突きでドンと決める!

ドワー・・・・

・・・とここでウケるはずが・・・くすくす・・・客席の小さな失笑を買ったのみ・・・

しまった!ここの客には場違いのネタであった・・・

まるでバック・トゥー・ザ・ヒューチャーで過去に行った主人公が、
ダンスパーティーの会場でギターソロを弾いて
盛り上がってジミヘンばりに弾いたら客がついて来れなくて
場が一瞬にしてしらーっとなってしまったような心境である。

「君達の時代にはちと早過ぎたようだね」

その時の映画のセリフを口ずさんでその場を後にしたかったが、
残り1曲、まだ当てぶりが残っている。
何事もなかったかのようにアホ面下げて当てぶりで叩く振りする俺。
「ファンキーは本当にユーモアたっぷりの・・・」
変なフォローをする司会者。

偶像は、遠くにありて想うもの・・・

ファンキー末吉


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