ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第68号----

平成 14/09/02 (月) 17:50


広州の恋

「ファンキーさん、明後日空いてる?」
S社長からいきなり言われる。
「音楽祭の授賞式で広州に行ってよ」
だいたいにして北京の仕事のブッキングは急である。
スタジオ仕事なんかでも「今からドラム叩ける?」はざらである。
いいですよ、広州でもどこでも行きましょ。

2002年全地球上における中国語歌曲のヒットチャート受賞式典。
なんてことはどうでもよく、
バンドのメンバー、スタッフはみんな行く前からの楽しみが食い物である。
食は広州にあり!
広東人は「飛ぶものは飛行機以外、四つ足は机以外何でも食べる」と言うが、
特に豊富な海産物を生かした海鮮を食わねば広州に来た意味はない。

そして更にワシにとって食い物の他に大きな楽しみと言えば、
すぐ隣の香港から広州で落ち合うことになっている
BEYONDのドラマー、Wingと会うことである。
そのまま翌日には一緒に北京に連れて帰ることになっている。

着いたらお互いに連絡を取り合い、どこで会うかを決める。
まるでデート気分である。
BEYONDが日本で活動していた時、とある取材でファンキーのことを聞かれ、
他のメンバーに「Wingはファンキーのこと好きなんだよ」と冷やかされ、
「何言ってんだよ」と言いながら顔を赤らめたと言う記事を見たことがある。

いや・・・ワシもまんざらではありませんよ・・・

電話ではお互いネイティブではない中国語で今日の予定を打ち合わせする。
本当は昼飯でも一緒に食いたかったのだが、
こちらもバタバタと会場入りして時間が合わない。
彼も何やら自分のライブのことで人と会わねばならないらしいし、
演奏が終わったら取り合えず連絡を取り合うと言うことで電話を切る。

こちら北京組では夕食に何を食うかで盛り上がっている。
演奏終了後に西貢と言う海鮮屋台に行こうと言う話である。
取れたての海老や魚や貝など、新鮮な海産物がまるで魚屋のように軒を並べ、
自分でそれを見て、「これとこれと料理してくれ」と注文する。
もちろん刺身で食ってもいいし、料理方法も指定できる。
一度Wingに香港の西貢に連れて言ってもらったが、それの広州版である。
Wingも連れて一緒にそこで海鮮食いながらビール・・・楽しみじゃ・・・

授賞式自体は非常に豪勢で、
香港、台湾、大陸、シンガポール等の大スター達が目白押しである。
知り合いも何人かいて、楽屋で談笑する。
廊下で突っ立ってると何人もの業界人に声をかけられる。
北京の業界人や香港の業界人・・・ワシって結構知り合い多いのね・・・
でも半数はどこの誰だか思い出せず
とりあえず生返事をしながら一生懸命思い出しているのだが・・・

陳琳の出番が終わった頃、Wingから電話が来る。
「終わった?早くおいでよ。美女達がわんさかファンキーが来るのを待ってるぞ」
お姉ちゃんと飲んどるんかい!

聞けば、ナイトクラブの経営者を紹介され、
その人の驕りでカラオケでどんちゃん騒ぎをしていると言う。
好きやねえ・・・

中国でカラオケと言うと、いわゆる日本で言うキャバレーである。
お姉ちゃんがわんさかいて、それを自分で選んで、
まあ通常はお気に入りのお姉ちゃんは店に言ってお持ち帰り出来ると言うシステム。
まあお持ち帰りはともかくとして、Wingとどんちゃん騒ぎをするのはやぶさかではない。
「マネージャーがホテルに迎えに行くからその車に乗ってすぐにおいで!」
うむを言わさず車に乗せられる。
「ワシ・・・海鮮食いたいんですけど・・・」
海鮮を食ってから行くとナイトクラブは閉まってしまうし、
逆にナイトクラブでどんちゃん騒ぎをした後に
朝までやっている海鮮屋台で北京組と合流すればいいか・・・

と思っていたら走れど走れどナイトクラブに着かない。
「遠いねえ・・・どこまで行くの?」
頭の中は海鮮でいっぱいなので心持ち焦りだす。
北京組は今頃西貢に着いて海老や魚を自分で選んでいる頃か・・・
「まだまだ着かないよ。まだ広州だからねえ・・・」
は?
「今から行くところは広州じゃないんだよ。あと30分もすれば着くから」
これでは海鮮は絶望的である。
お姉ちゃんと飲むために隣町まで行くかぁ・・・
「あのう・・・ワシ・・・腹が減って死にそうなんですけど・・・」
海鮮をあてにして夕食をまだ食ってない。
「大丈夫、大丈夫、向こうで何か食べるもの用意させとくから」
向こうったって・・・カラオケに海鮮はあるまい・・・

着いたところは巨大なキャバレー。
1階がショーもやってるナイトクラブとディスコ。
2階、3階が一般のカラオケ、
4階がVIPカラオケ。
当然のごとくマネージャーに4階に連れて行かれる。
部屋に入るとWingがお姉ちゃん達に囲まれてご機嫌でBEYONDの歌を熱唱している。
アホやねえ・・・

「ファンキー!やっと来たか。お姉ちゃん達みんな待ち焦がれてたぞ」
イェー!やんややんや!
でもお姉ちゃん達の歓待を受けてまんざらでもないワシ・・・
ただ、シラフでいきなりこのノリにはついていけない。
とりあえずビールをイッキする。
すきっ腹に染みて胃が痛い・・・
「ワシ・・・腹ぺこなんですけど・・・」
とりあえず海鮮はあきらめて、何でもいいから持って来てくれと言う。

経営者を紹介される。
見るからにうさんくさそうな中国人で、すでにべろんべろんである。
大スターが自分の店に来たことがよほど嬉しいのか、
Wingの肩を抱いては友達気取りである。
片言の日本語で「タノシイ」を連発しながらワシにビールのイッキをさせる。
すきっ腹に染みるんですけど・・・

「ワシ・・・腹が減って死にそうなんですけど・・・」
経営者に言って何とか早く食い物を持って来てもらうように頼む。
しかしメシが運ばれた頃、Wingと経営者は俺を連れて1階のナイトクラブに行く。
「あのぅ・・・ワシのメシは・・・」
見ればお姉ちゃん達もわんさかついて来る。
聞けば今からWingがライブをすると言う。
「ファンキー、3曲歌えば今日の飲み代全部タダなんだよ。お前も1曲ドラム叩け」
叩けって・・・どうすればええんでしょ・・・

ステージには既に司会者が上がって場を盛り上げるだけ盛り上げている。
さすがはあのBEYONDのドラマー、こんなアホでも出るところ出れば大スターである。
BEYONDの歌を歌えば会場は大合唱。さすがヒット曲は強い!

BEYONDはボーカルの黄家駒が日本で死んでからしばらく3人で活動を続けていたが、
今は活動を停止し、それぞれの道を歩いている。
歌を歌っていた他ののふたりはまだいいが、ドラマーはこう言う時につぶしがきかない。
そこで考えたのが、シンガーソングライターとしての新しい道。
自分が歌手としてオリジナル、そして過去の財産をも歌ってゆくことである。
歌手として自分のオリジナルアルバムも出し、
BEYONDのヒット曲と共にそのオリジナルも披露する。

中国は広い。
この広州の隣町、名もないこの街にもBEYONDのファンは山ほどいる。
大陸にはそれこそこんな街が山ほどあるのである。

ひき逃げにあったうちの社長、綾和也が五星旗の二胡奏者ヤンヤンの実家に行って来た。
鞍山と言うその名もない街、ヤンヤン自身が「あんなド田舎」と言っているそんな街ですら、
人口で言うと日本の名古屋と変わらない。
日本の6大都市規模が中国には100や200は下らないのである。

この地方都市でのライブはいつもむちゃくちゃ盛り上がる。
あの大スターが自分の街で歌っているのである。
しかもあの誰もが知ってるヒット曲をである。
ボーカルが死んで、もうオリジナルの歌声でそれを聞くことは出来なくても、
同じメンバーがそれを自分の街で歌ってくれる。
ファンはそれでも嬉しいと思うよ。
そして黄家駒も草場の陰で喜んでいると思う。

ええのよ、BEYONDの財産はお前ら3人のもんなんやから。
それを使って自分の音楽出来ればいいじゃないの。

そんなことを考えながらライブを見てたら、
いきなり最後の曲である。
そいで・・・ワシ・・・どうすればええのん?

最後の曲が終わったらWingがワシをステージに呼び込む。
そいで・・・ワシ・・・どないしたらええの?・・・
「それでは私の一番の友人、アジアのドラムキングにドラムソロを叩いてもらいましょう」
ウォー!キャー!やんややんや!
ここの人は何でもええんかい!・・・

しかし考えてみればドラムと言う楽器はほんとに情けない。
ドラムだけ叩いていくらソロをやったところでシメるものがないのである。
ワシ・・・ひとりでどうしろって言うの・・・
ひとしきりソロを叩いて、誰もシメる人もおらず、終わったらすごすごとステージを降りる。
それでも客は狂喜乱舞し、
興奮した客がビール瓶を割って3人怪我をしたと言う。
Wingはとうの昔に4階に戻って、女の子達相手にカラオケを歌っている。
お前は自分が先に脱出するためにワシにドラム叩かせたんかい!
「どうだった?ドラムソロは。お前のことだからむちゃ盛り上がっただろ」
すきっ腹にあれだけビール飲んでドラムは叩けません!

「うどんが出来てますよ」
お姉ちゃんがうどんを運んで来たが、すでに冷めてるし、延びている。
「お前・・・香川県人にこんなうどん出したら香川だったら殺されるよ・・・」
でも腹が減って仕方がないから全部食った。
何か悲しい・・・
海鮮が食べたかったのよ、ワシ・・・

仕方がない!
お姉ちゃんと盛り上がるとするか!
男5人ぐらいに、見ればお姉ちゃんが20人近くついている。
カラオケでこんな豪勢なのは初めてである。
自腹やったらさぞかし高いやろうなあ・・・
Wingが次から次へとワシにお姉ちゃんをあてがう。
どうせタダなら楽しまにゃ損である。
こんなチャンスは一生にもう二度とないだろう。
右手に美女、左手に美女、そして正面にも美女。
どこを見ても美女だらけで酒をがんがん煽る。

しかし実のところワシ・・・結構お姉ちゃんがつく飲み屋は苦手なのよね・・・
気ぃ使っちゃうのよね、お姉ちゃんに・・・
結局自分が金払ってお姉ちゃんを楽しませるだけで終わったりする。
しかし今日はタダ!・・・でも気ぃ使っちゃうんだよね・・・
何かあのプロの水商売の気迫に圧倒されたりするし・・・

お姉ちゃんが何順かして、楽しいながらちょっと気疲れした頃に、
また新しいお姉ちゃん達が10人ほどずらっと並ぶ。
今度は見るからにかなり若い!
となりのソファーにずらっと座り、Wingを見て「はっ」と顔色を変えたりする。
プロの水商売は、どんな有名人が来ようとも何か態度に余裕があるものなので、
これは見るからに「若い」に違いない。
ロリコンのワシは両手に美女をはべらしながらどうしてもそちらの方を見てしまう。

そしてその中のひとりと目が合った。
・・・キャワイイのだ・・・
しかしワシはどうしても傍らのお姉ちゃんに気を使って、
「あの娘が欲しい」とは口が裂けても言えない。
あきらめて傍らのお姉ちゃん達とがんがん飲んでたら、
しばらくしてWingが立ち上がって彼女達の方に行った。
彼女達のミーハーなリアクションがここでは非常に新鮮である。
ワシと目が合った女の子がWingに何やら話していたと思ったら、
Wingがワシをあちらのテーブルに手招きするではないか。

おう!お前はアホじゃが時々神様のようにええヤツになるのう!

傍らのお姉ちゃん達には
「ごめんよ、本当はずっと君達と飲みたいんだけど、
呼ばれてるから仕方なくあっち行くんだよ」
と背中で表現しながら心の中では喜び勇んで彼女の隣に座る。
「素敵な髪型の人ねえ、あれは誰なの?って聞いたら連れてきてくれたの」
おう!俺のもじゃもじゃを素敵な髪型とな!天然パーマで生まれて初めて幸せ!

もうその後はWingの顔もあちらのお姉ちゃんの顔も目に入らない。
もう熱病にかかったように彼女と話をする。
名前は氷氷(ビンビン)、18歳、まだここに来て半月だと言う。
「どこの出身なの?」
お姉ちゃん達にはおきまりでそう聞くのだが、
だいたいが全然しらない田舎町だったりするのだが、
彼女の口から「鞍山」と聞いてびっくり。
この広い中国で、唯一ワシが知っている田舎町の名前を聞くとは・・・

会話がどんどん熱を帯びてくる。
「どうして広州に来たの?北京でも上海でも都会はいっぱいあるじゃない」
「理由なんかないわ。私達を送り込んだ団体がここを選んだ。それだけよ」
聞けば同じく東北地方の出身ばかりで、
そのままひとつの部屋でみんなで暮らしているらしい。
よく言えば集団就職、悪く言えばタコ部屋生活である。

彼女と話せば話すほど、だんだん彼女を好きになってくる自分がわかる。
最初のうちは「タダなんだから楽しまなきゃ」ぐらいの気持ちで、
リップサービスで「君は素敵だ」などと言っていたのだが、
だんだんそれが本気になっている自分がいる。
嘘でも「好き」を連発しているといつしか本当に好きになると言うがなるほどである。
そっと膝に手を置いてみる。
恥ずかしそうに身体をずらす彼女がいじらしい。
しまいには「君を北京に連れて帰りたい」とか言っている自分がいる。
恋は男をアホにする・・・

カラオケ大会から音楽が変わりディスコ大会になり、
Wingがワシを呼ぶのでしぶしぶ踊りに行くと、
彼女も恥ずかしそうに傍らで踊る。
・・・キャワイイのだ・・・
ジジイなのですぐに疲れて席に着くと、
にこっと笑ってまた隣に座る。
そっと手を握ってみる。
ちょっと緊張して軽く握り返して来る彼女。
「これはもう彼女と人生やり直すしかない!」
よし、北京も日本も引き払って広州に住むか、
もしくは彼女を身請けして誰も知らないところでふたりで新しい生活をするか。
「身請けっていくらぐらいすんのかなあ・・・」
など頭の中は支離滅裂ないろんな考えが交錯する。

気がつくとWingがニコニコしながらこちらを見ている。
「気に入ったか?」
嬉しそうに耳打ちしてくる。
「お前に最初にナイトクラブ連れて言ってもらった時、
どんな女の子が来ても持ち帰りしなかったんでママさんが最後に言ったよなあ。
あんた、結局どんな娘が好みなのよ!って・・・
素朴な女の子って答えたら大笑いされたよねえ。
こんなところに素朴な女の子がいますかって・・・
・・・いたよ・・・ここに・・・これは運命の出会いだよ・・・」
熱病のように熱く語るワシに嬉しそうにうなずきながら、
「じゃあお持ち帰りする?」
突然ワシの心臓がばっくんばっくんと暴れだす。
そうかぁ・・・ここではそれが出来るんだもんなぁ・・・

実はワシのホテルはS社長と相部屋なので連れ込めないことはすっかり忘れて、
めくるめく彼女との素敵な夜、そして朝の別れを想像する。
きっと俺はこう言うんだろう。
「一緒に北京に行こう。そしてふたりで小さな部屋を借りて暮らそう」
胸が熱くなってひとり燃え上がってるうちにWingが経営者と話をつけている。
「1000元(約1万五千円)で持ち帰りOK」
Wingがそっと俺につぶやき、経営者がそっと彼女に耳打ちする。
最近スタジオ仕事が多く、ドラム叩き終わるとその場で現金でくれるので、
それをポケットに押し込んでるままなので4000元はあるはずである。
1000元の他に更に彼女の北京までのエアチケットも買えるではないか・・・

また彼女の手をそっと握る。
もう最初のような緊張感は彼女から消えていた。
「西貢で海鮮を食べて一緒に部屋に帰ろう」
そう耳打ちしたら
「私・・・それ・・・まだやったことないから・・・」
と悲しそうに下を向く・・・
でもどうせここにいたらいつかは誰かとやらなきゃならないのである。
「俺ではその資格がないかい?」
優しく肩を抱きよせる。
「ううん・・・そんなことないけど・・・」
俺はもう彼女と人生をやり直す決意で満々である。

経営者がやって来て、彼女達全員に200元づつチップを配る。
通常のシステムとして、お店にお金を支払う他に、
呼んだ全てのお姉ちゃんには200〜300元のチップを払わねばならない。
通常なら自分の女の子には自分が払うが、
何せ今日はタダ!全部この経営者の驕りなのである。
しかしこれだけの人数のお姉ちゃんだとチップも大変である。
恐らくワシの現在の持ち金全てを出してもそのチップの総額ぐらいにしかならないだろう。

「ファンキー、じゃあ帰るぞ」
Wingが立ち上がる。
「じゃあ行こう!」
彼女の手を引いて立ち上がるが、
「ごめんなさい・・・私・・・やっぱり行けない・・・」
彼女が悪そうにそう言う。
「どうして?俺のこと嫌いかい?俺は君の事とっても好きだよ」
もうみじんの嘘もなく心から「大好き」だと言える。
「ごめんなさい・・・私・・・それ・・・まだやったことないから・・・
でも電話番号教えて下さる?私、絶対連絡するわ」

水商売の女に電話番号を教えたら後々めんどくさいので絶対に教えないが、
彼女にだけはそのまま本当の電話番号を書いて渡した。
「君の電話番号も教えてくれる?」
「ごめんなさい・・・私・・・電話持ってないの・・・」
甘酸っぱく、ほろ苦い寂しさが身体中に広がってゆく。
でもまた会えるさ、ここに来ればいいんだもん。
香港で仕事入れて、そして北京に帰る途中に寄ればいい。
毎回日本から北京入りするのではなく、広州に入ってから北京入りしてもいいし・・・
そして彼女の一日分の日当とチップを店に渡せば、
彼女はここでいやな客の接客などせずに俺と一日愛を語ってられるのさ。
なるだけ頑張ってここに来れるようにして、
お金たまったら彼女を見受けしてここから連れ出すのさ。

「Wing!お互い仕事頑張ろうな」
夢が出来たって感じである。
恋はいいなあ・・・体が軽くなったような感じがする。
見も心も軽くなると言うのはこう言う気持ちなのだろうか・・・

彼女の笑顔を思い出しながら車にゆられ、
広州のホテルに着いたのは朝方。
寝ているS社長を叩き起こして広州の恋物語を話して聞かす。
起こされて機嫌の悪いS社長、
「ファンキーさん・・・相変わらずモテないねえ・・・それ・・・水商売の女にも断られたって?」
とS社長。
「ちがうんだよ、彼女は違うんだって」
一生懸命弁解するワシ。
「バカだなあ、それはその娘にとって一番客に喜ばれるような態度を演出したにすぎないの!
来て半月だろうがなんだろうが、彼女達はもうプロなの!」

言われて見れば、どんなホステスでも客が立ち上がったら一緒に立つし、
踊り疲れれば傍らに座る。
彼女達にとっては客が「恋をしている」気持ちにさせるのが仕事で、
男達はその夢を買うために金を払う・・・

「そいでタダでドラム叩かされて、うどんだけ食わされて?
俺達なんかもう食いきれないぐらい海鮮食って、それでも旨いからいくらでも食えるんだよ。
俺達んとこ来てればよかったのに・・・」

うどんしか食ってない胃袋がキューンと鳴る。
ま、タダだったからいいか・・・
ふとズボンのポケットに手を入れてみて青ざめた。
「金がない!・・・あそこに全部落として来た!・・・」
裸銭だから落としても届けられることはない。
いや、ひょっとして経営者がお姉ちゃんに払っていたチップは実は俺の金かも知れない。
ひどい時にはホステスがスル時もあると言う。
「いくら入ってたの?」とS社長・・・
「4000元(約6万円)・・・」
日本を1往復出来て、北京では2〜3ヶ月は暮らせる・・・

「ファンキーさん・・・広州の恋・・・高くついたね」

とほほほほ・・・頑張って仕事しよ!

ファンキー末吉


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