ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第83号----

平成 15/05/16 (金) 20:00


SARSから避難して高知にいる。

相変わらず変な街である、ここは・・・
(関連ネタwww.funkycorp.jp/funky/ML/35.html

その間五星旗のライブがここで数回行われたのだが、
城西公園で行われた野外ライブでは、
「ライブが終わったらメンバーがその辺の出店で買い食いしとると思いますんで、
見かけたらみなさん、気軽に声をかけてビールでも奢ってやって下さい」
と冗談でMCで言っていたのだが、
その後ワシが近所のひろめ市場と言う屋台村で飯を食ってたらワシ自身が捕まった。

「おまん、さっき城西公園でやりよったあの人じゃろ」
おいちゃん、おばはんが酒盛りをしているテーブルに連れていかれる。
「そうじゃろ、そうやねえ。そりゃえいわ。座りや!まあ飲みぃや!」
酒がばんばん振舞われる。
高知の名物の話になり、「酒盗と言うのがありましたよねえ・・・」とか言うと、
「酒盗かね。待っちょきや。買うて来ちゃるきぃ」
とわざわざ探して買って来てくれる。
「酒盗にはやっぱし日本酒よねえ。待っちょきや」
今度はそれに合う酒を買って来てくれる。

さんざん飲まされた後、タクシーに乗せられ、いきつけのスナックとやらに連れて行かれたが、
いかんせんワシは既に撃沈していて、そこがどこかもわからず爆睡していた。
まだ宵の口、夕方の7時である。
その後しばらく記憶がないが、気がついたらまたひろめ市場で飲んでいる。

翌日どうもそのスナックの場所が思い出せない。
千夢千夢(ちむちむ)と言う店だったと思うが、
きっと喪黒福造にココロのスキマを埋められたに違いない。

まあいい、こんな街である。喪黒福造もいるじゃろ。

ワシの親戚は高知に多く、その多くはもう数年会ってないのじゃが、
先日ひょこっと従兄弟が訪ねて来た。
男ばかり3人兄弟の次男坊で、
それぞれが何よりも波乗りを優先させる人生を送ってはいたが、
その中でもこの次男坊は特にハワイでたこ焼き屋をやろうとしてたつわものである。

家まで遊びに行ったが、
鏡川の上流のほうに一軒家の農家を借りて住み、職業は専業主夫である。
部屋にはマランツかなんかのオーディオシステムがあり、
アナログLPで大音量でマイルスデイビスをかけながら縁側でお茶をすする。

どうせ迷惑になるご近所もいない。
母屋も納屋も、裏の畑も全部込みで4万円。
ちなみにここの三男坊はもっと田舎の四万十川の上流に住んでいると言う。
畑も込みで家賃5千円。
人間まっこと何をもって「豊か」と言うのかはわからんっちや。

その従兄弟の知り合いの息子がワシにドラムを習いたがってると言う。
そう言えば城西公園でのライブ後のCD即売会で、
やたら熱心にCDを買いに来た中学生がいた。

訪ねて行くと、お父さんは実はうちのすぐ近所で喫茶店(と言うかCD屋?)
まったくもって何屋さんかわからないような店をやっていて、
しかもその店は夕方には閉まるのでビールは誰が飲むのだろうと思ってたら、
やっぱ昼間から飲む人が来るのね・・・ワシみたいな・・・

ビールをご馳走されながら、息子が城西公園でドラムに目覚めて、
音楽の道に進みたいらしい。
父親も
「普通の高校行ったかちこのご時世、就職があるとも限らんきぃ、
それやったら好きな道に進んだがまし!」
と言う考え(まことに高知的)なので、そこで是非ワシにご教授をと言うことらしい・・・

・・・やめた方がええでぇ・・・

車に乗せられて桂浜の方まで走る。
海沿いの今度は漁師のような家にお邪魔すると、
そこはオープンスペースの素敵なリフォームがされてあり、まるでリゾートである。
1階、2階にはあらゆる楽器があり、
近所迷惑を気にすることなくがんがんに演奏する。

一応基礎をくまなく教授して1階に降りると、そこには冷えたビールが1本。
そして奥さんがカツオを持って帰ってきて酒盛り。

「えぇ?ファンキーさん一緒にご飯食べる時間あるんですか?
困ったなあ・・・僕・・・今日塾なんですよ・・・」
と残念そうな息子さん。
「塾なんか休みぃや!人生の岐路に立つ重大なことがある言うて電話しちゃり!」
本当に奥さんがそう塾に電話をする。
「ほなお前も飲みや!」
中学生にビールを勧める親。

そしてこの夫婦・・・飲むわ飲むわ・・・

やっとのことで遊びに来た若い衆の車に乗せてもらって自宅に帰りついた。
ちなみにここによく遊びに来る若い衆も、
ふらっと高知に来たら気に入って住み着いたクチである。
この息子・・・もう普通の高校には進学せんと思う・・・

夜はよく知り合いのJazzバーへ繰り出す。
ピアニストのこのマスターももともとは静岡の人間だったのだが、
この街に仕事で初めて来て気に入ってしまい、そのまま住み着いたと言うクチである。
ドラムセットも置いてあるので、ベーシストを呼んでトリオでライブなんぞもやってみたりもした。

・・・楽しい・・・

この街はJazz好きが多い。
音楽にも非常にウルサイ。
好きなことをやり抜くことに命をかける県民性である。

その昔、上田正樹が高知に惚れこんで、
地元のトラベリンバンドと言うバンドと生活や活動を共にしていたと言うが、
そのリーダーのおばあさんは典型的な土佐のはちきんで
「おまん、何がやりたいがよね?音楽かえ。
それやったら他のことやったらいかんっちや。音楽だけやりや」
と孫に音楽だけをやらせたと言う伝説もあれば、
Jazzで言うと、地元のケーブルテレビの社長がJazz好きで、
スタジオを開放して朝から晩まで地元のミュージシャンのJazzフェスをやってたり、
毎月最終日曜日にはとあるJazzクラブで
地元のJazzミュージシャンオールスターでセッションをやっていると言う。

ワシは新参者なのでどこにJazzクラブがあるのかもよくわかってないので、
とりあえずこのJazzバーでいつも飲むと言うわけである。

先日なんぞボトルもキープせずにウィスキーをがばがば飲むので
ママさんが哀れんでくれてボトルを1本プレゼントしてくれた。
マスターはマスターで、「今日は南極の氷がありますよ」と来る。
隣のサラリーマンは、
「あ、南極の氷だったらこの酒飲んで下さい」
とI.W.ハーパーの12年モノを差し出す。
「社長のボトルなんですけど、先日のライブえらく感激してたんでいくら飲んでも大丈夫です」

「ほんまやなあ!!」

のごとくロックで飲み始めるが、
南極の氷には空気がたくさん入っていて、それが解け始めるとぱちぱちと音を立てる。
7000年前の空気がウィスキーに溶け出すのである。

こりゃ酔うでぇ・・・

反対隣のワシと同じ年ぐらいの女性であろうか、
ひとりで飲んでたがいきなりぼそっと、
「マスター、ここにはどんなレコードでもあるの?」
と尋ねる。
「いやぁ、何でもと言うわけにはいきませんが、まあ言ってみて下さい」
とマスター。
「鈴木勲って人のレコードなんですけど、1曲だけ私が大好きな曲があって、
それ・・・私の青春なんです・・・」

えらいマニアックな青春(失礼)やなあ・・・

どんな曲なのかを一生懸命説明する彼女。
「その曲が途中でベースになるんですよ」
鈴木勲はベーシストなんでそりゃ途中でベースソロにもなるでしょう・・・

そしたらマスター、ごそごそとそのCDを引っ張り出して来た。
「これです。これぇ!!」
感激する彼女。
早稲田のJazz喫茶でいつも聞いてたと言うその音楽が、
数十年後にここに溶け出して来る。

酔うでぇ・・・これも・・・

それにしても高知は濃い!
先日のお父さんが力説していた。
「フランスのある街はね。市の予算で文化に投資してるんですよ。
音のいいスタジオやホールを建ててね。
パリの一流のミュージシャンはみんなここに来て活動するんですよ。
環境がいいってね。
高知もそれをすべきですよ!」
聞けば市会議員は1500票取れれば当選すると言う。
そんな公約を掲げれば仲間内だけでも1500は堅い!
と力説するそのお父さん。

でも押すのがうちの従兄弟じゃ無理だと思いますよ・・・

「ほなファンキーさん出馬せんかえ!住民票移して。絶対当選するきぃ。間違いない!」
この街の人に「冗談」はない。
どんな馬鹿げたことでも全部「本気」である。

そそくさと明日この街を後にするとしよう。
明日は初台DOORSでXYZのライブ。
Jazzとレゲーと南国の音楽のここからいきなりヘビーメタルに戻るのさ。

ファンキー末吉


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