ファンキー末吉とその仲間達のひとり言

----第97号----

2004/03/06 (土) 13:30


Zビザ

いつの間にやら日本人が中国に来るのに短期ならビザがいらなくなっている・・・
ワシが最初に中国に来た時なんぞ、基本的には1次ビザしか取れず、
しかもそのビザがパスポートの1ページを占領してしまうぐらい大きく、
(それは今もそうなのだが・・・)
何回も往復していると、それだけでパスポートのページがなくなってしまう。
1年有効のマルチビザが取れた時にはそれはそれは嬉しかったのを覚えている。

90年に初めて中国に来たわけだから、もう14年目に突入したわけじゃが、
その間ワシはずーっとこのFビザと言うマルチビザでこちらに滞在していた。
まあ日本でも仕事があるし、毎月行ったり来たりするんだから何の不自由もないが、
早い話観光ビザなわけだから、厳密には仕事をしちゃアカン。
でもまあ・・・こちらの音楽の仕事は現金でとっぱらいやし、
別に領収書を切るわけでもなく、税金を払うわけでもない。
早い話「闇金(やみがね)」である。
誰に咎められるわけでもなく、
何の不自由があるでもなくずーっとこうして滞在していた。

いわゆる「不法就労」である。

一時は「不法就労」の上に「宿無し」であった。
友人宅を点々としてても十分暮らしてゆける。

「末吉さん、頼むから家ぐらい借りて下さいよ」
Jazz-yaの安田がそう懇願する。
街を自転車で走れば
「末吉さんがどこそこを自転車で走ってましたよ」
とJazz-yaに電話が入るほど日本人に顔が売れているワシが宿無しでは
安田にとってもあまりにもメンツがない。

「いっそのこと家買ったらどうですか?」
不動産ブームの北京で確かにいろんな人がワシにそう言う。
昔はあんなに貧乏だった北京のミュージシャン達も今ではみんな家を買っている。
「お前が何で家買えるの?」
そう質問するが、
「そんなの簡単だよ。銀行から金借りればそれで買える」
答えは簡単である。
「お前なんかにどうして銀行が金貸すのよ?!!」
「トモダチの弁護士に毎月の収入はいくらだって書いてもらえば貸してくれるよ」
「貸してくれたってお前・・・返せないだろよ・・・」
「返せなかったら家取られるだけだから一緒じゃん・・・」

・・・バブルである・・・

まあどんどん値上がりしているとは言え、こちらではマンションはまだまだ安い。
ひと月家賃並みの値段で返済出来るんだったら
借りるより買った方がよいのは道理である。
「末吉さん、うちのマンション買いませんか?」
安田が時々ワシにそう言う・・・
「ワシ・・・家とか縛られるものはちょっと・・・」
だいたい150平米もある部屋に住んだって、
使うのはその中の四畳半ぐらいだけである。

「李波(リーボー)も部屋売りたいって言ってますよ」
Jazz-yaの中国人パートナーも、子供がもうすぐ幼稚園なので、
「北京で一番の幼稚園に入れて、その近くに引っ越したい」
と中国人らしい親バカぶりを発揮している。
「じゃあちょっと見るだけ見に行こうかな・・・」
今560kgのドラムセットと共に転がり込んでいる安田の家と同じマンション群なので
ふらっと見に行く。

彼の部屋はマンションの1階である。
「末吉さん、地下室もあるよ」
中国のマンションの1階は中二階ぐらい小高く、
ベランダから下に降りて行けるテラスを作ったついでに、
そのベランダの下の部分を横に向かって掘って行って地下室を作っている。
一面がガラスなので、地下と言うよりは十分「1階」である。
「いやー・・・勝手に掘っていったらマンション側から咎められて、
一時は訴訟までされたけど、大丈夫。もう解決したから」
今では区会議員にあたる役職を持つ、「政治家」でもある彼を
訴訟出来るやつなどいない。

地下室かぁ・・・スタジオに出来るなあ・・・

「買った!」
いきなり家を買うことを決意。
よく考えたら部屋の間取りや細かいところは一切見ていない。

ま、いい。昔日本で車買った時も、車屋さん行って、
「駐車場近所に探してくれたらあんたんとこの売りたい車買ってあげるよ」
と言って車屋を廻った。
当時探すのが難しかった駐車場を見事に探してくれたところに
「じゃあどの車買おうか?」
と質問する。
カタログをたくさん並べて説明するセールスマン。
「どれでもいいよ。走れば」
結局その車を見ることもなく薦められた車を購入。
「車見ないで買った人・・・初めてですよ・・・」
とあきれられたのを思い出す。

「ローン組めるんでしょ」
一応確認してみる。
どうせ組めなくても、
「じゃあ彼相手に月々の返済をすればいい」
ぐらいにしか思ってない。
彼が一生懸命銀行を当たって調べてくれる。
「お世話になってる李波(リーボー)さんですから
出来るだけのことはさせて頂きます」
どこの国でも銀行は同じである。
ちゃんとしたビザと、ある程度の査定を通ればローンが組めると言う。

「じゃあビザとって!」

この国は何でも不自由で何も出来ないと言う面と、
何でも思い通りに何でも出来ると言う面とふたつを併せ持っている。
ちゃんとそれ専門の業者がいて、
必要な書類を提出すればちゃんとしたビザを正式に申請して取ってくれる。

手続きを始めたのが去年の年末。
しかし正月とこちらの旧正月、
それに日本に仕事で帰るためにパスポートを時々返してもらうので
手続きは全然進まない。
旧正月明けは2ヶ月以上こちらに滞在するので
その間にパスポート預けて手続きを全部済ませてもらおうと思って
外国はおろか飛行機に乗って北京を離れることも出来ず
ただひたすらビザが下りるのを待っていた。

「銀行の査定が下りたよ」
李波(リーボー)から電話が入る。
「ビザまだ下りてまへんがな!」
お世話になってる李波(リーボー)さんですから、
「ここは全て信用して、観光ビザでもローンを通します。
まいどありがとう御座います!」
てなもんであろうか、いきなりローンが通っても、実はこちとら頭金もない。

「実はさあ・・・金ないんだ・・・」
前代未聞!家を売る人から金を借りるワシ・・・

ここまで来たら売る方も後に引けない。
てんやわんやで金策して、次に引っ越すマンションを物色する売主。
相変わらず部屋の間取りも覚えてなく、結局全額でいくらかも知らない買主。
もう必要でもないのに一生懸命ビザ取得で帆走する業者。

「末吉さん、大変です。末吉さんのパスポートがもうすぐ切れます」
ビザ取得の直前になって大きな問題を発見する業者。
「それって北京ででも切り替え出来るの?」
調べたら北京の領事館でも出来ると言う。
「おまけに末吉さんのFビザももう切れてます」

ワシは不法滞在者かい!

でもビザの申請中に切れた場合は許してくれるらしい。
ほっとしてパスポート切り替えのために日本から戸籍謄本を取り寄せ、
写真を数枚撮って領事館に行く。
「外国で取得したパスポートは機械で読み取れない方式となりますので、
今年からアメリカにノービザで入れなくなる可能性があります」
なんじゃそりゃ?!!!
アメリカはテロ対策のため、
機械で読み取れないパスポートでは入国させないようにする方針だそうである。

テロはやめろ!ワシのビザのために・・・

しかしもう仕方がない。中国のビザのためである。アメリカは捨てた。
まっさらなパスポートを取得し、業者に渡し、
更に北京から一歩も出ずに待つこと数日。
よく考えたらもうそろそろ日本に帰国せねばならない。
「7日に出国するからね!それまでにビザ上げてよ。さもなくばパスポート返して!」
もうのべ5ヶ月に突入する。いい加減でビザを発給してもらわねば困る!

と思ったら昨日やっとビザが下りた。
Jazz-yaに取りに行った。
まっさらなパスポートに1ページ使って「Zビザ」が押されている。
他には何もない。当然ながら出入国のハンコもない。まっさらである。

・・・ちょっと感激・・・

更にはふたつの中国のパスポートみたいな書類が渡される。
ひとつは・・・「外国人居留証」・・・おう!・・・ワシ北京に住んでいいのか・・・

・・・かなり感激・・・

これってもうビックカメラかなんかで買い物しても消費税払わなくてもいいのじゃ!
消費税は日本に住む人に課せられる税金なので、
外国から来た旅行者や、外国に住む日本人は基本的に免税となると言う。

・・・とても感激・・・

そしてもうひとつは・・・「外国人就労証」・・・おう!・・・ワシ北京で働いていいのか・・・

・・・ワシは不法就労で家買った男・・・ファンキー末吉


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